ログイン「それで私言ってやったのよ~。あなたとはもう終わったのよ! 話しかけないでちょうだいって!」「おお、はっきり言ってやったのじゃな。それで、相手はどうなったのじゃ?」「それがね。泣くんですよ~。『あの愛し合った日々が忘れられない。俺を捨てないでくれ』って。男らしくないったらありゃしない」 うーむ。ソフィーさんもガンガンにお酒飲んで酔っ払っていらっしゃる……。 マーチャン様が楽しそうだからまあいいんだろうけど、VIPルームってこういうものなのかな? わたしが想像していたものとずいぶん違う……。 なんかほら、アタッシュケースに金貨がぎっしり入っていてさ、サングラスをした男が「確かに、1万枚の金貨を受け取りました。おーい、山田君、例のモノをお持ちして」「かしこまりましたー」「それではですね、そのかつらとサングラスをしていただいて、わたしたちは殺し屋の集団ということになります。わたしが先輩、みなさんが後輩です。『わたしが、おや、そんなに急いでどこに行くんだい?』と後輩のみなさんに声をかけますから、続いてお答えください」って感じのやつを想像してたんだけどなー。「それでね。そいつったら、往来の真ん中で突然服を脱ぎだしちゃって~」「それは傑作じゃの!」「『こんなところでみっともないからやめなさい』って言ったら、『じゃあ最後に1回だけ』って、まさかの体目当てだったのよ~。最低な男よね♡」「それは最低じゃの!」 いや、何の話よ……。 酔っ払いの会話やばいね。『アリシア? こちらロイス。聞こえたら返事どうぞ。オーバー』 お、ロイスから連絡だ。 どうしたんだろ。「こちらアリシア。聞こえてますよ。オーバー」『良かったわ。こっちは無事ローラーシューズショーが終わったわよ。みんながんばってた! お客様も大盛り上がりで大成功だったわよ!』 ロイスのテンションが高い。 それだけうまく行ったってことかな。良かった良かった。「報告ありがとう! うまくいったみたいで良かったわー。初回なのに見てあげられなくてごめんってみんなに謝っておいてくれる?」『うんうん。伝えとくね。セイヤーがね「暴君幼女がいなくてももう大丈夫っす」って言ってるわ』「ほう、そうかそうか。セイヤーはあとでわたしがどれくらい暴君かを体にわからせてやらないといけないようだね」『あ、セイヤーが逃げた
「え、何? ソフィーさんが呼んでるの? 3階のVIPルーム?」 ホールに向かってローラーシューズで滑っていたところ、天使ちゃんに呼び止められた。「もうすぐローラーシューズショーなんだけどなー。なんかトラブル?」「はい、どうやらお客様が暴……アリシアちゃんを呼んでいるみたいで」 ギリ許す。キミにはアメちゃんを上げよう。「お客様かー。それはしかたないね。いきます。でもちょっと待って」 しまったなー。体が2つほしい。コピーロボットの開発を本気で進めなければ……。 でも今日のところはこれでなんとか指示を――。 アイテム収納ボックスから開発したばかりのヘッドセットを取り出して装着する。 うまく使えるかな?「あー、あー、マイクテストマイクテスト。こちらアリシア。控室、聞こえますか?」 どうかな。……反応ないな。「こちらアリシア。声が聞こえていたら、緑の〇ボタンを押して通話を開始してください。オーバー?」『……れ、ですね。もしかしてトランシーバー? こちらロイス、聞こえますか? オーバー?』「お、ロイス。さすが! そう、トランシーバーだよ。こっちの声は聞こえてる?」『ええ、クリアに聞こえています。アリシア、あなたこんなものまで作っているの?』「機械類は得意分野なのー。学生時代にちょっとね。だけど魔石って便利ね。音声を集積して電波に変えて飛ばすこともできたのよー。まあ、でも電波が届く範囲は狭いから、せいぜい店内くらいの範囲にはなっちゃうけどね」『それはそれは……。それで何か用事?』「ああ、そう。ちょっとトラブルみたいで、VIPルームに行かないといけないの。だから20時のローラーシューズショーに立ち会えないと思う」『大丈夫、かしら……。みなさん平気?』 さすがにちょっと不安そう。 ロイスが3人の反応を確認してくれているみたいね。『闘魂注入されたからいけるって』「よろしい! 良い返事だ! みんなの活躍に期待してるよ!」『私に何かできることはある?』「そうねー。3人を送り出してくれると助かる」『送り出す?』「そう、送り出すー。ほっぺにキスして『がんばって♡』ってやつー」『うそでしょ⁉ あなたいつもそんなことやってるの⁉』「じゃあ頼んだよー。急いでいるから通話終了。オーバー!」『あ、ちょ――』 はい終了。 顔を赤くして慌てふ
VIPのお客様のお相手は、ソフィーさんとマーチャン様のお気に入りの天使ちゃんたちに任せてーと。わたしは調理場の様子と1階のホールの様子も確認しないとね! プロデューサーさんは大忙しなのだ!「どうやってるー? 機械の調子はどうかしら?」 夜の間、ナゲットクンの機械はお休みさせているけれど、他の機械は稼働しっぱなしにしているのです。大盛況だから、製造し続けておかないと明日売るものが足りなくなってしまう恐れがありまして。「はい。順調です。肉の裁断機は正常に動いています。油の温度調節も正常です。オーブンも正常に動作しています」 調理場の天使ちゃんたちはとってもまじめ。 時間ごとにしっかりとシフトを守って働いてくれている。「報告ありがとう! サポートロボットの調子はどうかしら? ちゃんと役に立ってそう?」 重いものを運んだり、料理をサーブする補助のために、ホールの天使ちゃんたちに1人につき1体のサポートロボットをつけてみたのでした。個人認証させて自動追従するシステムだよー。高速で移動しても汁物をこぼさない重力制御搭載! キッチンから天使ちゃんが手で運ぶよりも事故がなくて安全!「ええ、そちらも今のところとても順調のようです。ホール係の話によると、『丸っこくてかわいい』とお客様からも好評をいただいているようです」 でしょうでしょう♪ 皇帝ペンギンの皇ペンちゃんですよー。ローラーシューズでシューっと滑っていく姿がペンギンっぽかったので、外見もかわいらしくしてみたよ♪ ゆくゆくはグッズ化! とりあえず表のガチャガチャに皇ペンちゃんグッズを入れてみて世の反応を見てみるか……。「お席が60分制になっていますから、料理の待ち時間を極力減らすことを心がけていきましょうね。注文したらサッと料理が出てくる。お食事に満足してすぐに帰っていただく。そして次のお客様をお迎えする。大変ですけど短い時間でお客様に満足していただけるように、しっかりとおもてなしをよろしくお願いします!」「「YES、暴君幼女!」」「おい、声を揃えて暴君幼女って呼ぶなっ! ホントに暴力振るうぞ! わたしの全力パンチはホントに痛いからなっ!」 こぶしを振り上げると、天使ちゃんたちが笑いながら散り散りになって逃げていく。 まったく、悪ふざけが過ぎるわ! 君たちのまかないは1品減らす! さて、次は
「マーチャン様、本日は龍神の館にお越しいただき、誠にありがとうございます」「うむ。約束通りきてやったぞよ」 あ、プレオープンセレモニーの時の小さなお客様だ! 約束してたっけ⁉ 今日も鮮やかな緑色のマントをすっぽりかぶっちゃって……ちょっと怪しい人よね。「これはこれはマーチャン様~♡ いつもご贔屓にしていただきありがとうございます♡」 ソフィーさんが大歓迎、といった具合に膝をついて両手を広げる。幼児を出迎えるパパ? 貴族じゃないけれど常連さんなのよね、きっと。 あれ? でもお連れの方は……?「うむ。今日も楽しませてもらうぞよ」「本日からリニューアルオープンですから、今までよりも一層ご満足いただけると思いますわ。本日は3階の特別な個室をご用意しておりますの。オホホホホ」「うむ。プレオープンのパーティーは大変満足じゃった。今宵も期待しておるぞよ」 上機嫌なのは良いけれど、子どもなのにまるで仙人みたいなしゃべり方ね。店に入ってもマントをぜんぜん脱がないし。「さあさ、3階までお運びいたしますね。失礼して~」 ソフィーさんがマーチャン様を片手で持ち上げると、なんとそのまま自分の肩に乗せる。マーチャン様の体がいくら小さいからって、それは失礼には当たらないの? マントの色的に、まるでオークの肩に止まるオウムみたい。「ほう? おぬしもローラーシューズとやらが使えるのか。めいっぱいスピードを出すがよいぞ!」「言いましたね? 後悔しても知りませんからね。飛ばしますわよ~!」 オークとオウムが笑い合いながら階段を登っていく。なんかすっごい仲良さげ……。ていうか、これは何を見せられてるの? ディスカバリーチャンネル?「あ、置いてかれた……。ほら、あなたたちもぼーっとしてないで、準備にとりかかるー! VIPのお客様をお待たせしないよー!」 わたしの隣で階段を眺め続ける天使ちゃんたちにはっぱをかけて、わたしも後を追うことにした。* * * なんとか3階のVIPルームの入り口で2人に追いつく。「本日のコース料理ですが……3名様でご予約をいただいておりまして……お連れ様をお待ちしてからスタートなさいますか?」 普通にお1人のまま部屋まで来ちゃってるけど、待ち合わせはお店の中なのかな?「アリシア、マーチャン様はこのままで大丈夫よ。すぐに始めちゃってちょうだい
「いらっしゃいませー♪ 龍神の館へようこそー」 18時30分。 予定通り夜営業開始。 とは言っても、予定通りでない部分もあった。開店前からお店の前にたくさんの行列ができてしまい、急きょ整理券を配布することになってしまったわけで……。 ローラーシューズショー見学用のチケットは席代をチャージ制に。 お食事だけの席は60分制にしてもらった。あとは今日だけテラス席も開放して、そっちでも飲食を楽しめるように突貫工事!「危なかったー。天使ちゃんたちが気づいてくれなかったら、また昼間の二の舞を踏むことになってたよ」「ホントよね。でも夜のテラス席もなかなか乙なものね。アリシアの用意してくれたライト、ステキだわ~♡」 ソフィーさんも喜んでくれていた。 各テーブルにランタンを設置してお料理を上から照らすようにしてみましたー。必要以上にライトをつけないようにしたほうがいいよね。せっかくの屋外だし、星空も楽しめるようにね。「それにしてもちょっと意外です」 わたしはぼそりとつぶやく。「どうしたの? 何かまた想定と違ったのかしら?」「えーとですね。お客様の層が意外だなーと。これまでの傾向だと、失礼ですが、もうちょっと裕福な方々が多くお見えになるのかと思っていたので……」「そうね。たしかに。こうしてみると昼間のお客様とそう変わらないかもしれないわ……。ご家族連れも多くみられるし。もしかしたら貴族の方々は様子見をされているのかもしれないわね」 ソフィーさんが腕を組み、分析する。 といっても、胸の筋肉がパンパンで、胸の下に手を添えるだけになっているのがちょっとかわいい。「様子見ですかー。ガーランド伯爵のプロモーションに食いついたのは庶民の方が多いのですね。ガーランド伯爵の支持者はそっちに偏っているのかな?」「あなた、するどいわね……。セドリックは一般の市民をとても大切にしているから、逆に近隣の貴族受けがあんまり良くないのよね。でも王宮とはうまくやっているから大丈夫だとは思うのだけれど、いつもハラハラしちゃうわ……」 周りに聞こえないように配慮しているのか、ソフィーさんが小声でつぶやき、ため息をついた。 政治の話かあ。あっちを立てればこっちが立たず。大人の世界は難しいですなー。「うちのお店をうまいこと利用してほしいのだけれど、肝心の貴族が寄り付かなくなってし
「みなさん、昼営業、大変お疲れさまでした! なんと! 初日、販売目標達成です!」 バンザーイ! みんな拍手拍手ー! イエイエイエーイ♪ 天使ちゃんたちも手ごたえがあったのか、いつにも増して活気づいている。「これはホントにみなさんの努力の成果です! ガーランド伯爵の粋な計らいで営業開始から長蛇の列ができても、みなさんが必死にさばいてくれたおかげです! ホントにお疲れさまでした!」 慣れない機械を使わせたのに、がんばって対応してくれたオーダーの天使ちゃんたち。 試食を配ったり、列の整列やお客様トラブルの対応をしてくれたプロモーションの天使ちゃんたち。 まさかのストック切れになりそうなところを、しっかりペースを守って追加の料理を作ってくれた調理の天使ちゃんたち。 みんなみんなお疲れさまだよ。「予想をはるかに超える人数のお客様が来店されて、みなさん満足そうに帰っていかれましたね。きっとお持ち帰りしていただいた料理で、さらに次のお客様を呼んでくださることでしょう」 もうね、これは平民たちの胃袋はつかんだといっても過言ではないのではないでしょーか!「そして今日、陣中見舞いとしてきてくれたロイス嬢! なんと裏ではガーランド伯爵のネームバリューを使って号外まで配布してお店のプロモーションをしてくれていました。さらにさらにこの類まれなる美貌を使ってお客様を虜にして次の来店を約束させるという反則ギリギリの技まで! はい、みんな拍手ー!」 盛大な拍手、そして指笛。ちょっとしたお祭り騒ぎだよ!「ちょっとアリシア? 私、ぜんぜん褒められてる気がしないのだけれど⁉」 ロイスが真っ赤になって抗議の声を上げる。 そんなロイスの態度に、天使ちゃんたちがどっと沸いた。あー、なんかお店、とっても良い雰囲気だねー。「えー、ほめてるよー? まさに適材適所ー。ずっとロイスがお店の前に立っててくれたら、販売目標倍にできるかも?」「それはありがたいわね♪」 ソフィーさんもホクホク顔。「もう、みんなして私のことをからかって! 知らないんだから~」 プイと後ろを向いてしまう。耳まで赤いロイスさん。あらあら♡ かわいいお顔をこっちに見せて♪ それにしてもロイスはすっかり打ち解けたねー。このお店の天使ちゃんたちは、貴族の方と接する機会も多いけど、相手の身分で変に壁を作らないの
「伝えにくいことって……」 はっ! もしかして、この間ボール遊びをしていて教会のステンドグラスを割ったから、罰が与えられる⁉「いいえ。私は女神ですから、そのようなことで怒ったりはしません。ですが、あなたはきちんと謝ることのできる大人になれると良いですね」「はい……ごめんなさい」 黙って逃げてごめんなさい……。「許しましょう。ですが、伝えたいのはそのことではありません」 あれ? ミィシェリア様って、さっきわたしの心の声に返事しなかった?「ええ、あなたの心の声は全部聞こえていますよ。私は女神ですから、信徒の心の声を聞くことができます。神と子の間に隠しごとはできませんから、裏表なく、清
「アリシア=グリーン。10歳のお誕生日おめでとうございます」「あ、ありがとうございます……女神……様」 わたしは頭を垂れ、跪いたまま冷や汗ダラダラだった。 やばい。女神様の名前、度忘れした……。 なんだっけ……。 ここパストルラン王国では、七神の女神が信仰されている。10歳の誕生日に七神いずれかの女神に礼拝し、洗礼を受けることになっているのだけど、だけど……。 わたしが洗礼を受けるのは……えっと、愛の女神様なんだけど……名前が……そうだ、ミィシェリア様! あっぶない、思い出したー!「女神ミィシェリア様。ご機嫌麗しゅう」「もし? 聞いていますか? あなたの名前はアリ
「洗礼式、早く始めてくださいよー」 ミィシェリア様が再びわたしの頭の上に手を置いたまま、特に何もせずに数分が経過していた。「これで洗礼式を終わります。アリシア、あなたは女神ミィシェリアの名のもとに洗礼を受け、仮成人となりました。おめでとうございます」「へ? 終わり? さっきみたいなぐわーって熱くなったり、なんか光がパーっとなったり、天井から天使が舞い降りてきたり、女神の祝福のキスとか……そういうのないんですか?」「ありませんね。洗礼式はあなたの内側にある鍵を開けるだけですから、私から付与するものは何もありません」 なんだーそれー。期待して損したー。演出弱いなー。ゲームだったらここでプ
ミィシェリア様の手を通じて、わたしの頭の中に、誰かの記憶の断片が流れ込んでくるのを感じる。 これは誰? 男の子? 見たことない服。周りの風景。 あ、待って。なんかちょっと思い出してきたかも。 あ……前世。これが前世なんだ。 わたし、前世では男の子だったんだ。気弱そうであんまりかっこよくない……。王子様とは違う。がっかり。 流れ込んできた記憶、そして知識が紐づいていき、わたしは前世という概念を理解した。 大学。研究。ロボティクス工学。就職活動。 知らない言葉が頭の中に浮かんでは消える。そして脳内に浮かぶ映像とともに理解する。 わたし